対 談
ルーム・トゥ・リード・ジャパン事務局長 松丸佳穂 ×
テル・コーポレーション代表取締役 浅井輝彦
「モチベーションの源泉は子どもたちの笑顔」
この度、2016年12月の寄付月間に、弊社のCSR活動として支援させていただいた、途上国の教育支援NGO「ルーム・トゥ・リード(RTR)ジャパン」代表の松丸佳穂(まつまるかほ)様にご来社いただき、弊社(テル・コーポレーション)代表の浅井輝彦(あさいてるひこ)と対談を行ないました。
元々、仕事一筋で、大手企業の第一線で活躍されていた松丸さんが、なぜNPOの職員として働くことになったのか?そして、「NPOでの仕事の実情」、「松丸さんの今の仕事に対する想い」などを、弊社代表の浅井がインタビュアーとして伺いました。
松丸 佳穂(まつまる かほ)
特定非営利活動法人ルーム・トゥ・リード・ジャパン事務局長。早稲田大学第一文学部卒業後、リクルート入社。広報、結婚情報誌の編集・企画を担当。
世界文化社・社長室を経て、現職。ルーマニア、ロシアなど海外で育ったことから、読書や教育の重要性を身をもって体験。ビジネスと同じようにスケールとスピード感をもって途上国に教育支援をするルーム・トゥ・リードの活動に深く共感し、2010年、ルーム・トゥ・リード・ジャパンを立ち上げ、事務局長に就任。趣味はフィギュアスケート観戦(浅田真央さん、羽生結弦さんの大ファン)。
「大切なのは企業側のニーズを把握すること」。ビジネス経験を活かした、ルーム・トゥ・リードのサービス開発
浅井 本日は、わざわざ弊社までご足労いただき誠にありがとうございます。
松丸 こちらこそ、昨年(2016年)の寄付月間キャンペーンの際は、多大なるご寄付をいただき、誠にありがとうございました。おかげさまで、約200人の子どもに識字教育を届けることができました。
浅井 いえいえ、微力ですが、少しでも子どもたちの未来のために貢献できてうれしいです。
早速ですが、今回は、松丸さんのキャリアを通して、ルーム・トゥ・リードの活動について聞かせていただきたいと思っております。まず、ルーム・トゥ・リードに関わられるようになったきっかけを教えてください。
松丸 ルーム・トゥ・リードに関わったきっかけは、本当に偶然でした。当時(2007年)、代表(現、創設者)ジョン・ウッドの『マイクロソフトでは出会えなかった天職』という本を日本語版で出すプロジェクトが進んでいました。ですが、ルーム・トゥ・リードの職員に日本人はいなくて、日本で広報ができるボランティアメンバーを募集していたんです。その当時、私は出版社に勤めていて、広報の経験もあったことから、友人に声をかけていただいたのが、ルーム・トゥ・リードに関わるようになったきっかけでした。それまで、ルーム・トゥ・リードのことは知りませんでしたし、本業の仕事が多忙で、ボランティア活動をしたことも一切ありませんでした。
浅井 まずは想いよりもスキルありきだったのですね。
松丸 はい、そういうことになります。ただ、幼少期に、海外、しかも当時社会主義国で育った経験から、本の重要性を実感していたので、ルーム・トゥ・リードの活動にはとても共感しました。そこから、継続的にボランティアとして関わるようになり、2010年には、ルーム・トゥ・リードで初めての日本人の職員として採用されて、日本事務所を立ち上げました。
浅井 豊富なビジネスのご経験をお持ちの上で、NPOの世界へ転身されるのはすごく大きなメリットがありそうですね。
松丸 そうですね。おっしゃるように、ビジネス経験は私のルーム・トゥ・リード職員としての活動に様々な面で貢献してくれているように感じています。例えば、私自身も、前職や前々職時代にNPOの方と一緒に仕事をさせていただくことがあったのですが、今は逆の立場です。ですので、いつも当時のことを思い出し、「いかに企業側のニーズをしっかりと把握するか」を大切に、日々仕事に取り組むことができています。
浅井 例えば、企業側のニーズは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?
松丸 企業側のニーズは本当に様々なのですが、例えば、過去にあったものですと「企業イメージの向上」です。当時、ご支援いただいていた企業様は、活動や実績自体は素晴らしく、全国で知らない人の方が少ないくらいの会社だったのですが、消費者からの店舗のイメージがそこまで高くはなかったのです。ですので、会社としてルーム・トゥ・リードと共にCSR活動に取り組むことで、企業イメージアップに貢献させていこうというプロジェクトが立ち上がりました。もちろん、ルーム・トゥ・リードの活動に共感していただいてのことですが。
浅井 なるほど。それですと、「CSR活動を通したコンサルティング」のような形になりますね。
松丸 コンサルティングというよりも、企業側のニーズがどこにあるのか。また、CSR活動をどう効果的に活用していくか、一緒に考えさせていただくという感じです。
こちらの企業は、最初は、企業のイメージアップを目的としたものだったのですが、結果的にお客様の来店者数も伸びて、店舗のスタッフがお客さまから「この活動すてきですね。」と声がけをいただき、それがモチベーションアップになるような副産物的な効果もあったそうです。社長は、ビジネス上も結果が出たことに満足されていらっしゃいましたが、それ以上に、お店で働いているスタッフが、「自分の会社に誇りを持てた」、「この会社で働いていてよかった」と言ってくれたことが一番嬉しかったとおっしゃっていました。
そして、近頃は、リーダー研修ニーズもあります。例えば、アジア事業を展開している、もしくはしたい企業が、将来の幹部候補生を「進出先の国の姿を肌で感じてほしい」という目的で、支援したプロジェクトの現地視察に送り込むというものです。
浅井 確かに、都市部だけではなく、進出先の国の現状をしっかりと把握できるのは大きな価値がありそうですね。
松丸 はい、リーダー研修というと、アメリカのような先進国で「最先端のビジネスメソッドを学ぶ」のようなものが一般的なイメージだと思うのですが、私自身、CSR活動を通した研修には新しい可能性を感じています。先日、ベトナムにいらした企業の参加者からも、訪問後、「会社に入って、ここまで心が揺さぶられる経験は初めてだった。自分では行けない場所に行くことができて、とてもよかった」など、熱い思いがびっしり綴られたアンケートをいただきました。
その他、寄付をいただく際に「損金計上できるかどうか?」も大きなポイントになります。2017年2月に私たちも念願でした「認定NPO法人」を取得することができました。日本では、認定NPO法人を取得している団体は、全NPOの2%以下のみ、という狭き門なのです。
NPOのマネージメントは「人との関わり方」が大切
浅井 企業側のニーズを把握し、しっかりと取り組まれている姿はさすがですね。ただ、ボランティアとして関わっていたものが、「職員」となると様々な変化や戸惑いなどがあったと思うのですが、そちらについてはいかがでしょうか?
松丸 実は私自身、そこまで大きな違いや変化は感じていないんです。ただ、大きな違いがあるとすれば、ボランティアで関わっていた時とは「時間」という点があると思います。例えば、職員になる前はジョン・ウッドが来日した際のスケジュール作成やアテンドも、本業の合間を縫って行なう必要があったのですが、今は、本業ですので、大変ではありますがフルタイムで取り組むことができます。
浅井 そうすると、NPOと我々のような一般企業の会社との違いはあまりないということでしょうか?
松丸 会社員時代と比較して、NPO職員としての大きな違いとしてあるのは、会社員時代には出会えなかった多くの人たちとの出会いがあることだと思います。しかも世界中にです。というのは、日本では、職員数は私を含めて現在2名で、あとは「ボランティア」の方や「プロボノ(専門家が専門スキルをNPOなどに無償提供する)」の方なのです。例えば、WebサイトのことはボランティアのITチーム、TwitterやFacebookなどはSNSチーム、翻訳はバイリンガルの専門チーム。また、法務のことは法律事務所の方がプロボノワーカーとして担当してくださっているように。
登録ベースの数字になりますが、ボランティアの方は1000人以上もいてくださるんです。職員は2人ですが、このような多くの方々と数多くのプロジェクトを行ないますので、とにかく関わる人数が多くなります。日本国内にとどまらず、海外からサポートをしてくださる方もいらっしゃいますので、国籍もバックグラウンドも多種多様で、本当に飽きるということがありません。もちろん、皆さん、ルーム・トゥ・リードに協力してくださる動機やモチベーションはそれぞれですので、ただお願いするだけではなく、それぞれの方々が持っていらっしゃる強みだったり、ニーズをお伺いしながら、皆さんにとっても、この活動に関わってよかったと思っていただけるような「機会」になるといいな、と常に願っています。
「正直きついときもあるが、その時は原点に戻る」。数値指標を大切にするルーム・トゥ・リードの取り組み
浅井 活動自体も助け合っているのが素敵ですね。サポーターの方も「関わられせてくれてありがとう」という気持ちを持って取り組まれているのでしょうね。ただ、これだけの人と仕事をすると、しんどくなる時もあると思うのですが、いかがでしょうか?
松丸 実際には、それはあまりきついと感じる要素ではありません。サポーターやプロフェッショナルの皆さんとの仕事は、私自身も勉強になることばかりで、楽しく取り組ませていただいていますし、みんないい人ばかりですので、逆にきつい時に私が助けてもらっているくらいです(笑)。実は、私がたまに仕事について葛藤を感じるのは、数字のことの方が大きいんです(笑)。
浅井 数字というと?。
松丸 ルーム・トゥ・リードは、「2020年までに1500万人に教育を届ける」という目標を掲げているのですが、そのために、私どもルーム・トゥ・リード・ジャパンにもビジネス的数値目標が課されています。そして、この数値目標は、週単位で管理をされているので、なかなか目標が行かない時などは、正直追いつめられてしまうこともあります。
浅井 それは、大変ですね。そのような時は、どのようにして乗り越えられているのですか?
松丸 その点は、正直に言うと、まだまだ私の中で大きな課題になっています。恥ずかしながら、その点は浅井さんにもご指導いただきたいくらいでして。
浅井 いえいえ、ご指導も何も。ただ、お話を伺っていて「(ルーム・トゥ・リードの活動をしようと思った)最初の気持ちを忘れない」ということが大切なのではないかと感じました。
松丸 確かに!「原点に戻ること」は、私にとってはすごく大事かもしれません! 私がこの仕事をボランティアの時から通算して10年、変わらないモチベーションで続けてらいれるのは、とてもシンプルで、「一人でも多くの子どもたちに本の素晴らしさを知ってもらいたい」からです。自分自身が、これまでの人生で、あらゆる本やマンガに支えられて生きてきました。でも、この世界には、それを経験できない子どもたちがたくさんいることにがく然としました。一人でも多くの子どもたちに、と思えば、時に追い詰められながらも、高い目標設定は当然のことですよね。
浅井 すごい素敵な想いですね!いや、でも確かに、あの子どもたちの笑顔を見ていたら、それはすごくわかります。
松丸 ありがとうございます。私も本当に、あの子どもたちの笑顔が大好きなので、がんばらせてもらえているのだと気づかされました。
ところで、浅井さんは何かお好きな本はありますか?
浅井 私の場合、仕事柄「経済書」や、伊集院静さんの本は大人の心をくすぐってくれるので好きで読んだりはしています。ただ、実は、特別「読書が趣味で大好きです!」ということではないんです。というのも、性格的に、何かを始めるとのめり込んでしまいやすくて、のめり込んでしまったら、運転中や仕事中も本のことを考えてしまうかもしれません。
松丸 さすがの集中力ですね。
浅井 そうなんです。もし、自分でルーム・トゥ・リードさんの活動に積極的に手を動かし始めてしまうと、本業の方に手が回らなくなって、社員に迷惑がかかってしまうかもしれません(笑)。
松丸 確かに本業の方が成りたたなくなると本末転倒ですよね。
これは私の興味なのですが、浅井さんが大切にされている座右の銘などはありますか?
浅井 座右の銘というほど大それたものではないのですが、実は私も「原点に戻るということ」を大切にしています。そして、「人のために何ができるか」ということを常に念頭に置きたいと思っているので、コーポレートフィロソフィーに「地域との共生に努めながら社会に貢献する」というのを掲げております。社員や地域のために自社の活動を発展させたいですし、その地域の幅を世界に広げてくれるルーム・トゥ・リードに微力ながら協力させていただけるのがうれしいんですよ。ご報告時にいただく写真を見る度に、子どもたちの笑顔って本当に素敵だと感じます。
私の話が長くなってしまいましたが、最後に、ルーム・トゥ・リードの活動で子どもたちに対して大切にしていることを教えてください。
松丸 「子どもの教育が世界を変える」ということです。結果を平等にすることはできませんが、生まれた国や、親の収入に関係なく、教育を受けられる機会を平等にすることは、とても大事だと思っています。
浅井 素晴らしい方針ですね。寄付させていただく前は、そこまでは存じ上げておりませでしたので、すごく感銘を受けました。
松丸 ありがとうございます。寄付者の方には、ご支援いただいたプロジェクトの報告書や、事業報告書などもお送りさせていただいておりますので、ぜひご覧くださいね。
浅井 ありがとうございます。ぜひ拝見させていただきますね。
松丸さん、改めまして、本日はわざわざ弊社までご来社いただき誠にありがとうございました。今後のご活躍に期待しております。